とっちら

好きなことを取っ散らかします。

有川浩『クジラの彼』,飛鳥井千砂『タイニー・タイニー・ハッピー』を読みました

しばらくの間、体調がよくなっては崩れよくなっては崩れを繰り返していて、体調管理に一切自信がなくなっている中で、母が買ってきてくれた本を読んだ。母もわたしもいい意味で「頭を使わない本」を娯楽として読むのが好きだ。わたしたちは比較的勉強をするのを楽しめるタイプの人々なんだけど、普段の生活で頭を使いすぎるきらいがあるので、娯楽として本を読むなら極力頭を使わないものがいいのだ。いろんなことを考えず、そのまま受け取れるものがいい。 

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 有川浩『クジラの彼』を読んだら、いい恋がしたくなった。いい恋は人を支えるし、強くするし、なんだかんだで有川浩さんの物語の中の人々は、恋によって輝くからだ。少女マンガみたいなその世界を見ていると、「いっちょ恋するか~!」という気分になる。描かれている年齢はそれぞれだが、なんとなく有川浩作品は少年少女の恋っぽく、青春小説っぽく描かれているものが多いような気がする。それはあえてなのかもしれない。

『クジラの彼』は自衛隊に所属する人々の普通の生活、普通の恋愛を描いた短編集で、自衛官への取材時に「恋愛物をやります、ベタ甘です」と伝えると「それはいいね!」と喜ばれたそうだ(あとがきより)。「自衛官もフツーの人間なんだということを書いてやってください」と言う彼ら。その厳しい職務の平行線上で、フツーの人として過ごす彼らのフツーさを描くには、わかりやすいラブコメにすることがもしかしたら必要だったんじゃないかと思う。有川浩さんは甘々のラブロマンス・ラブコメディ好きを公言しているけど、この作品が甘くて素敵なのはそれだけが理由じゃないんじゃないか、誰でもハッピーで楽しい恋をしていいんだよ、できるんだよって伝えてくれてるんじゃないかなんて思った。

 

 

続けて、飛鳥井千砂『タイニー・タイニー・ハッピー』を読んだ。恋って悪くないじゃん、と思った。この、2冊を読んだときの感想の違いは伝わるだろうか。

この本は2011年出版で、つまるところそれはわたしが高校生だったときに出たということだ。そのときのことをわたしは覚えている。この本と、瀧羽麻子『うさぎパン』が書店に並んでいて、その2冊だけが表紙がこちらを向くように並べられていて、1冊だけ買うつもりだった受験生のわたしは『うさぎパン』を買ったのだった。あのとき選べなかった方をいま手に取ってみると、うまくいかないことの多い恋愛の中から、どうハッピーを見つけ出していくかについて考えられそうな短編が詰まっていた。当時していた恋で、恥ずかしくなるような数々の失敗をやらかしているわたしは、高3のあのとき手にとっておくべきだった、と後悔に駆られた。読んでいたとしても実際にやらかすことなしには学べなかったと思うのだけれど、それでも、これを読んでいたら少しはマシだったかも、と思わずにはいられない。

飛鳥井千砂さんの本を読んだのはこれが初めてだった。有川浩作品の少しファンタスティックな日常に比べて、本作品で描かれるのはホントのホントに日常、だ。名前こそ可愛らしいものの、話の舞台はベッドタウンにある大型ショッピングセンター「タイニー・タイニー・ハッピー」。仕事の忙しさに妻の話をはぐらかす男や、断りきれずに他の男と寝てしまったことから彼氏との関係が揺らぐ女。既婚者である同僚への気持ちに踏ん切りのつかない男もいれば、ゲームのように妻帯者を誘う不器用な女もいる。ハッピーエンド大好きマンのわたしが楽しく読めたということは、まあそういうことなのだが、絶妙にリアルなキャラクターたちが悩みながらも希望に向かっていく姿には、端的に言って励まされる。だから出てくる感想が「恋って悪くないじゃん」になるのだ。

 

 

グッズグズの思うようにならない体に、「人間やめたい」「犬になって庭駆け回りたい」「猫になりたい」「ハリネズミになりたい」とめちゃくちゃ言っていたわたしだが、こういう物語を読んだ後には「あーなんか、人間悪くないかも」って思えたりするのだ。

魔法が使えるわけでもなければ世界を救うわけでもない、それゆえ、確実に心は温まっているのに感想を書くのは難しい本たちだけど、こういう「フツーの生活」を描いた物語こそが、わたしの足下から数メートル先へと柔らかい光を投げかけてくれているんだよなあ、と思ったのでエントリを書きました。

 

ついでに言えば、心のどこかで就職のこととかも悩んだりしてたんだけど、『タイニー・タイニー・ハッピー』のおかげで大型ショッピングセンターも悪くないなって思ったよ。本はいろんな可能性を引っ張ってきてくれる、嬉しい。感謝です。

 

 

クジラの彼 (角川文庫)

クジラの彼 (角川文庫)

 

  

タイニー・タイニー・ハッピー (角川文庫)