映画『裸足の季節』/身体はただ、はつらつとしているだけ
映画『裸足の季節』を観てきました。
トルコの保守的な地域で祖父母と暮らしている5人姉妹が、あることをきっかけに、「傷物」にならないよう、いわゆる「チャラついたもの」を没収され、柵で囲われた家の中で花嫁修行のようなものをさせられる。一番上の姉から嫁がされていく中で、末っ子のラーレはどのように行動していくのか……というような話です。
あんまりこれはネタバレを気にする種類の作品ではないと思いますが、気になる方はこの先を読まずに観に行ってね!
トルコ・イスラム教・女性
上記の監督インタビューでは、トルコにおける女性のことを考え、語りたくてこの作品を作ったと述べられています。女性観含む物事の捉え方に大きく関与しているもののひとつに宗教がありますが、トルコといえばイスラム教。
イスラム教においては、「女性は親族以外の男性に触れてはいけない」とされることが多いです。髪や手足の露出もだめ。これは、男性の視線を避けることが自分の身を守ることにつながるから……というような理由だったような。このあたりの考え方は同じイスラム教国でも地域差があるようですが、映画の舞台は保守的な田舎町。当然男女の接触は避けるべきとされているはずです。
映画の冒頭には、海で遊ぶ男女の学生のシーンがあるのですが、そこで男子の上に女子が乗る騎馬戦を行ったことが、5人姉妹が家の中に閉じ込められるきっかけとなっているんですね。これは、配偶者でもない男性の肩に女性が乗ったということですから、人づてにそのことを知った祖父母はめちゃくちゃに怒るわけです(見ててわりと辛かった)。
ここからの5人姉妹が受ける仕打ちは散々なんですよね。でも、それらはこの地域では当然とされていること、文化なわけで、それに縛られているのは姉妹だけではない。彼女たちをひどく叱る祖父も、祖父から守る様子を見せながらもその女性観には同意している祖母も、文化やしきたりに縛られているという点では同類です。みんな抑圧されている。
テーマは「古い価値観の抑圧」ではなく「女性へのイメージ」ではないか?
じゃあ、この映画の一番のテーマは「抑圧」なのかというと、わたしはそうではないような気がしています。監督インタビューの記事を少し引用してみると、
「6年前ほどから、女性について色々と考え出したのです。特にトルコにおいて、女性というのはどうなのかを考え、語りたいと思いました。」
(映画『裸足の季節』トルコを舞台に、5人姉妹の甘美でほろ苦い反逆のドラマ - 監督・デニズにインタビュー | ニュース - ファッションプレス)
というように、トルコにおける女性よりも先に女性全体のことを考えているようなんですね。
たしかにこの映画の舞台はトルコであるし、そちらのほうに焦点を当てれば、イスラム教の要素を含む保守的価値観による抑圧*1を問題視した映画である、と捉えることもできると思います。ですが、その前にある「女性について考え出した」ということに注目してみると、女性に対するイメージへの問題意識が見えてきます。
わたしは、いくつかのシーンで光がとても綺麗だなあと思いました。閉じ込められるきっかけとなる騎馬戦のシーン、姉妹が部屋でよこたわっているシーン、最後のほうで映るモスクのシーンです。
その中でも、騎馬戦のシーンは強く印象に残っています。なぜ印象に残ったのか。それは、その後家族から受ける批判の内容とは対照的に、まったくいやらしさがなかったからです。20歳以下の男女が、海に反射する光を浴びて楽しそうに遊んでいる。その映像から感じられたのは、健やかさ、生命力、エネルギーでした。全身が濡れるのも気にせずにはしゃぐ様子は本当にかわいらしかった。
このシーンの事実は、「若い男女が海で騎馬戦をして遊んでいる」ということだけです。それに対して祖父や祖母の中で起こったイメージは「いやらしい」「みだらだ」というようなものでしたが、それは外部からくっつけられたもの。実際に起きている事象からではなく、イメージした彼らの側から導き出されたものです。女性の身体や行動そのものにいやらしさがあるわけではない。
このようなことは、多分トルコの田舎町に限らず起きているんじゃないかなと思います。さらに言えば、女性に限らず、です。わたしはわたしの感じたようにしか見ていない。
だからこそ、できる限り勝手なイメージを排していくことが、これからの社会をよりよく生きていくためには必要だよな〜というところに思い至りました。自分の文化がしみついているから難しいところもあるけど、努力したいとこ。
まあなんかいろいろ難しく考えなくても、5人姉妹役の女優さんたちがそれぞれとてもそれらしい演技をしているし、光の当たり方が綺麗で絵画みたいだったし、音楽もすごいよかった、なんかよくわからないけどとにかく美しい映画だなと思ったのでよかったら見てほしいです!原題のムスタング(野生の馬)にふさわしい映画!東京なら銀座か恵比寿!よろしくお願いします!
余談ですが、この記事を書いていたときのツイートが、学校での読書感想文教育と結び付けられていておもしろかったです。「一切意図していなかったことを他者がわたし(の文)から感じる&広がる」という、この映画を通して思ったことがリアルに起きていた……。
物語を読み終わったときに書くもの、感想型(あらすじなし、自分と結びつけたものがメイン)と解説型(あらすじが必要、自分とは結びつけない)があると思うんですけど、わたしは圧倒的に感想型なので解説型で書こうとすると難しいな……
結局、学校において「読書感想文の正解」って何か未だに分からないんですよね…
— すかいゆき / 藤原惟 (@sky_y) 2016年6月26日
大人になって分かったのは、「実は先生も正解を持っていなかった」こと。なぜなら、学習指導要領には大ざっぱにしか方針が書かれていない(らしい)ので。https://t.co/MrRLT5bzgA