とっちら

好きなことを取っ散らかします。

人生を物語にすることにあまり興味がない、あと『質的社会調査の方法』

人生を過度にロマンティックにすることに興味がない。物語らしくすることに興味がない。そのことについて、もしかして照れのようなものがそうさせているのかなと思っていたが、おそらくそうではない。物語にしようとしなくても、勝手に物語になってしまうのに、なにをわざわざやっているんだ、と感じているのだと思う。

 

質的社会調査の方法 -- 他者の合理性の理解社会学 (有斐閣ストゥディア)

質的社会調査の方法 -- 他者の合理性の理解社会学 (有斐閣ストゥディア)

 

岸政彦ほか『質的社会調査の方法──他者の合理性の理解社会学』は、本屋に行ったときに同行者が話題にあげたことで知った本だ。わたしは急遽社会学をやることになったというのもあり、ぜんっっっぜん基礎知識がないなーと感じていたので、このたび読んだ。

 

内容は、そもそも質的調査とはなんなのかについて触れたのちに、フィールドワーク、参与観察、生活史調査について、それぞれの章を担当する学者が、自分の研究内容を交えつつ紹介するというものであった。具体例のある方法論といった様子(タイトルに「方法」とあるのだからそれはそう)。

フィールドワーク担当の丸山里美氏は女性ホームレス、参与観察担当の石岡丈昇氏はマニラのボクサー、岸政彦氏は沖縄史についての研究をそれぞれ例として出しているので、ちょろっとそのあたりに興味があると読み進めやすいかもしれない。でも全体的に配慮があってすごく読みやすいですよ(=読んでて不快になりにくいと思いますよ)。わたしは慎重な文が好きなので、1冊通してすごく好きだった。

 

一番好きだったのは岸氏の担当する生活史の章で、わたしは生活史にすごく興味があるな〜。ちょっと紹介しますね。

 

生活史調査について、この本では以下のように定義されている。

生活史調査とは、個人の語りに立脚した、総合的な社会調査である。それは、ある社会問題や歴史的事件の当事者や関係者によって語られた人生の経験の語りを、マクロな歴史と社会構造とに結びつける。語りを「歴史と構造」に結びつけ、そこに隠された「合理性」を理解し記述することが、生活史調査の目的である。(p.156)

この定義が章の最初と最後にあって、最初は「ふ〜ん?」という感じだったのが最後には「なるほどね……」となっている。構成がすごくいいんだろうな……。

他者の合理性、わたしは結構大切にしたいな〜と思っている……というよりも、どうしても無視ができなくて、正直に言えばちょっと困っているものでもある。わたしにとってはよくわからないことであっても、誰かにとってはすごく合理的なんじゃないか、と思うと、なかなかうまく自分の意思を表明できない。自分も同程度に「合理的」なはずだから、気にしなくていいと思うんだけど。まあわたし個人の話についてはいいです。

 

最近、社会学ってなんなのかな〜というか、なんになるのかな〜みたいなことを思うことがあって。だって後からしかできないですよね、社会学は。意味のない批評みたいなのになってしまうのやだな〜とかモヤモヤしていたんですが、岸氏は社会学とは……みたいな話も書いてくれていた。

こうした、人びとの行為の背景にある、さまざまな事情や経緯、構造的条件や制約を記述し、そしてその行為がどのようなプロセスで選択されたのか、ということを理解することが、社会学のひとつの仕事です。そして、人びとがその生活史においてどの道を選択して、それをどのように語るか、ということを丹念に拾い上げることによって、無理解が生む「自己責任論」を解体することが、社会学の遠い目標のひとつである、と考えることができます。( p.236)

なるほどね〜でした、たしかにね。これは普天間基地周辺の、爆音がひどいところに住んでいる人の生活史を聞き取った、という流れのところに書いてある部分なので、ぜひ本を読んでみてくださいね。

わたしはあんまり「ただ記述すること」には価値を感じていなかったのだが(それは歴史みたいな縦の流れにあまり興味や実感を持てないということも原因かもしれない)、記述されることで初めて発見され、理解されるものというのもあるのかもしれないなと改めて思いました。しかし社会学のよくわからないうさんくささみたいなのはどこから生まれているのだろう、そう感じているのはわたしだけではない気がするんだけど(本書とはまったく関係ないです)。

 

そんで、冒頭の文章に戻るんですけど。わたしはわざと物語にしなくとも、結局人生というものは物語になってしまうものなんだろうなと思う。で、その物語の背景に、けしてメインではないけれど社会というものはある。

わたしは社会そのものにはあまり興味がなくて(実態がつかめず、成文化されてない雰囲気が支配するものも大きくてよくわからないから)、ある個人がどうなのかということのほうが圧倒的に興味があるな〜ということに、社会学に進んでから気づいてしまったのだが、生活史調査というものは、かなり自分の興味の持ち方に近いものがあるな〜と思ったのでした。

調査方法というものは手段であって、当然調べたい対象や目的によって適切なものを選ぶべきなわけですが、そういうふうに興味がもてたのはいいことだったと思う。参考文献とは別に、ブックガイドも推薦文つきで紹介されててそれも嬉しい。

あまりにも文章を書いてないなと思ったので久しぶりに書きました。興味があればぜひお近くの図書館などでも。2016年12月発行、有斐閣の本です。

 

有斐閣ストゥディアシリーズいいな、2013年刊行らしいので、わたしが高校生の頃にはなかったということだ。こういうのを早いうちに読めると、進路決定にも役立つかもしれませんね。いいな。どんどんいい世界になってほしい。