とっちら

好きなことを取っ散らかします。

わかれめ

「こんばんは」「こんばんは」「お久しぶりですね」「ね。……ピアス?」「ううん、イヤリング。道具屋でもらったんだけど、」「道具屋?RPGかな?勇者かなにか?」「違うよ、古道具屋。」「あーはいはい。買ったんじゃなくてもらったの?」「うん。古道具屋で、置いてあって。片耳だからご自由にどうぞって」「あー、なるほど、かたっぽしかないわけね」「でも無料ってすごくない?こんなにかわいいのに。なにか他のを買わなくてもいいのかって聞いちゃった、全然かまわないって言われたから、もらったの」「ふーん、そう」

 

その人はピアスかどうかという事実確認をしただけで、それ自体に対して感想を述べることはなかった。そういえば、その人にはピアスと腕時計をもらったことがあったのだった。ピアス穴のあいていないわたしは、文字盤がピンクのその腕時計をとくに大切にしていて、いっときはお守りのように身につけていたはずだ。

 

その人と会った日、わたしは、自分で手に入れたイヤリングと細い指輪、そして、他の人にもらった、文字盤がゴールドの腕時計をつけていた。そう気がついたのは、会ってから5日が過ぎた、やたら春めいた日のことだった。