とっちら

好きなことを取っ散らかします。

信じられない、わからない

 「やっぱり変だと思うんだよね、血のつながった大人が4人も家にいるなんてさ。ごちそうさま」
 険のある声でそう言って、娘が食卓を離れた。めまいがした。わたしは育て方を間違えたのだろうか。

 娘に異変が現れたのは、彼女が東京の大学に入って2年が過ぎた頃からだった。1年生のうちは頻繁に電話をかけてきて、ここの人たちは信じられない、意味わかんないことばかり言ってくる、などと嘆いていた。わたしはそれを「そんなこともあるよ、価値観の違いだね」と笑いながら聞いていたのに、いつの間にか彼女にとって「意味わかんない」のはわたしのほうになってしまったようだ。

 今、娘の周りでは「血のつながりのない家族」が流行っているらしい。シェアハウスならわたしにも馴染みがあるが、あれは家族とは違うと思う。家族っていうのは、どこかしらに血のつながりがあって、なんかもっと、避けがたい運命みたいなものがくっついているんじゃなかったのか。もちろん夫とわたしに血のつながりはないけれども、代々受け継がれてきたものをわたしと夫で組み合わせて、それが娘と息子になったのだから、つながり続ける一端を担っている。それが家族じゃないのか。シェアハウスなんていつ解散してもおかしくないものを、家族と呼ぶことはできないと思う。

 それに、「血のつながった大人が4人も家にいるのは変」とはどういうことなんだろう。たしかにわたしたちは血がつながっていて、娘も息子も成人した。大学が長期休みのときに限定されるが、「血のつながった大人が4人家にいる」は事実だ。それが「変」とはどういうことなのか。「4人も」と言うから、数字が多すぎると考えているのかもしれない。核家族が一般的になっていることが関係しているのだろうか。いや、でも、親2人子2人の核家族。どこにおかしいことがあるのだろうか。成人してもわたしの子はわたしの子だ。かけがえのない家族が4人揃うことさえ否定するほど、「血のつながらない家族」の流行は勢いを増しているのだろうか。

 娘のことが信じられない。彼女はわけのわからないことばかりを言っている。