とっちら

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レジリエンスが低い人のレジリエンスの高め方 平野真理『レジリエンスは身につけられるか──個人差に応じた心のサポートのために』

 

 

卒論でレジリエンス(回復力などとよく訳される)に関連するテーマを選んだので、レジリエンスについても多少は勉強したつもりでいるのだけど、ずっと気になってたのは「レジリエンスを高めるぞ」というときにポジティブ思考や社交性がすごく必要なんじゃないかということだった。他人とのつながりを絶ってはいけないということ、理解はすごくできるが、多分レジリエンスの低い人はそれが難しいのではないか?ポジティブ思考なんてもってのほかなのではないか?という気持ちがあった。

そんな中でこの本を読んでみると、まずレジリエンス要因(レジリエンスを導く性質)を遺伝に関係する資質的なものと発達過程で身につける獲得的なものとに分け、その2つのもつ効果はどう違うのかなどについても述べつつ、資質的なレジリエンス要因を持たない人のサポートがどう行われるとよいかについて書いてあった。

すごーく雑なまとめ方をすると、資質的レジリエンス要因が少ない人は、あるリスクをガードしづらくて人生ハードモードっちゃハードモードなんだけど、特有の強さも持っているし、他者のサポートを得つつスキルを身につけることでやっていけるようにはなるよ、支える側の人は彼らに対してまず聴く、それから助言等に進むといいよ、という話だったと思う。

 

資質的要因は、楽観性*1、統御力*2、社交性*3、行動力*4から構成されていて、遺伝的な影響が強い。これらは「ストレスや傷つきをもたらす状況下で感情的に振り回されず、ポジティブに、そのストレスを打破するような新たな目標に気持ちを切り替え、周囲のサポートを得ながらそれを達成できる力と関係していると考えられる(p.72)」。あったらめちゃくちゃ有利じゃん。

一方、獲得的要因は、問題解決志向*5、自己理解*6、他者心理の理解*7から構成されていて、遺伝的影響が少ない。これらは「自分の気持ちや考えを把握することによって、ストレス状況をどう改善したいのかという意志を持ち、自分と他者の双方の心理への理解を深めながら、その理解を解決につなげ、立ち直っていく力と関係していると考えられる(p.72)」。うわーこれも必要そう。

 

で、このように身につけにくいもの4つと身につけやすいもの3つがわかったわけだけど、じゃあこの2種類のレジリエンス要因は機能が一緒なのか?後者を身につけるだけで十分なのか?というのが疑問になる。

ここで、「心理的な敏感さ」をリスクとして考える。獲得的要因はリスクがあっても身につけやすい。だけど、これによって心理的敏感さを補えるというわけではないっぽく、心理的敏感さというリスクの防御推進には、資質的要因の影響が強いらしい。つまり、2種類のレジリエンス要因が導くレジリエンスは性質が違う。それはすなわち、なにかあったときに、そこから立ち直るあり方が違うということだ。

 

さらに具体的に、どういうふうにその立ち直り方は違うのか?と考えてみる。ここで行われた調査からは、傷つきへの対処法として、積極的コーピング(積極的に問題から離れる・積極的に問題に向き合う)と消極的コーピング(考えない・その場に留まる)が見出される。さらに、周囲のサポートとして、居てもらうサポート・聴いてもらうサポート・教えてもらうサポートの3つが見出される。

資質的要因得点の多い人は、積極的に問題に向き合う傾向があり、低い人はその場に留まる傾向が見られた。また、資質的要因得点が低いが獲得的要因得点が高い人は、教えてもらうサポートを得ながら積極的コーピングも行っていると考えられるが、資質的要因得点も獲得的要因得点も低い人は、聴いてもらうサポートを用いる傾向が見られた。以上のことから、資質的要因の少ない人は、まずは聴いてもらうサポートで消極的コーピングを支え、教えてもらうサポートを求めていけるように、問題に向き合う動機づけや援助要請能力を育むことが必要だと考えられる。

で、消極的コーピングって一見あんまりよろしくないもののように見えるのだが、調査結果からは、資質的要因の少ない人にとって、これはどうも適応的な方法なのではないかと考えられるっぽい。これらに見られるのは「逃げない我慢強さ」と「あきらめ」の力であり、これが不利に働いてしまうことももちろんあるのだが、言い換えれば「あるがままの受容」と「問題との折り合いをつけていく」という行動でもある。これらが大きなストレス状況を乗り越える底力的な役割を果たしているのかも、と平野氏は推測している。

 

このあと、個人差を踏まえた臨床心理学的介入の方向性についても述べられているんだけど、その方向性については5つの提言がなされている。

提言1:レジリエンス要因の中には、後天的に身につけにくいパーソナリティもあるという視点を持つ。同時に、レジリエンス要因を身につけられるかどうかには個人差があるという視点を持つ。

提言2:個人の生まれ持った資質に注目し、その資質を活かしたレジリエンスを引き出す。

提言3:資質的要因を多く持つ人には、様々な対処(コーピング)を用いて問題に向き合っていけるようにする。

提言4:資質的要因の少ない人には、多い人とは異なる立ち直り方があることを尊重する。

提言5:その上で資質的要因の少ない人には、「聴いてもらう」サポートを通して、本人が他の対処方法を「教えてもらう」サポートも選択していけるような可能性を提供する。( p.133-138)

 そして、具体的なサポートの流れとして、

ステップ1:個人の持つ資質的要因のアセスメント

ステップ2(資質的要因を多く持つ場合):「強み」を活かすサポートの提供

ステップ2(資質的要因が少ない場合):「聴いてもらう」サポートの提供

ステップ3(資質的要因が少ない場合):「教えてもらう」サポートの提供(p.140-144)

 という3ステップが挙げられている。このへんは心理職の人が実践することを前提として書かれているけれども、人から相談されたときとかに「なんでこの人はこうできないんだろう?」みたいに感じたときに役立つ気がする。

 

「資質的レジリエンス要因が少ない人は、あるリスクをガードしづらくて人生ハードモードっちゃハードモードなんだけど、特有の強さも持っているし、他者のサポートを得つつスキルを身につけることでやっていけるようにはなるよ、支える側の人は彼らに対してまず聴く、それから助言等に進むといいよ、という話」と冒頭でまとめてみたけど、どうでしたかね。資質的要因の少ない人が、多い人と同じようには完全にはなれない、しかし違ったやり方でレジリエンスを高められるよ、というのは、残念だけれども希望もある。あくまで資質「的」、であるところもポイント。遺伝的要素が高いからこのように名づけられているけど、後から獲得できないわけではない。

この本は各章非常に親切なまとめパートがあるので、まずそこを読んでから詳細を読む、というやり方でもよいと思う。気になった方はぜひ読んでみてほしいです。

しかし、スキルを身につけるのも人と一緒にやっていかなきゃ難しそうで、そこがちょっとつらい、とにかく人と関わりたくない人がレジリエンスを向上させるにはどうしたらいいんだろう、という疑問はまだ自分の中に残っている。そもそも人と関わらずにやっていこうというのが無理な話なのかもしれない。

*1:将来に対して不安を持たず、肯定的な期待を持って行動できる力

*2:もともと不安が少なく、ネガティブな感情や生理的な体調に振り回されずにコントロールできる力

*3:もともと見知らぬ他者に対する不安や恐怖が少なく、他者とのかかわりを好み、コミュニケーションをとれる力

*4:目標や意欲を、もともとの忍耐力によって努力して実行できる力

*5:状況を改善するために、問題を積極的に解決しようとする意志を持ち、解決方法を学ぼうとする力

*6:自分の考えや、自分自身について理解・把握し、自分の特性に合った目標設定や行動ができる力

*7:他者の心理を認知的に理解、もしくは受容する力