とっちら

好きなことを取っ散らかします。

わかれめ

「こんばんは」「こんばんは」「お久しぶりですね」「ね。……ピアス?」「ううん、イヤリング。道具屋でもらったんだけど、」「道具屋?RPGかな?勇者かなにか?」「違うよ、古道具屋。」「あーはいはい。買ったんじゃなくてもらったの?」「うん。古道具屋で、置いてあって。片耳だからご自由にどうぞって」「あー、なるほど、かたっぽしかないわけね」「でも無料ってすごくない?こんなにかわいいのに。なにか他のを買わなくてもいいのかって聞いちゃった、全然かまわないって言われたから、もらったの」「ふーん、そう」

 

その人はピアスかどうかという事実確認をしただけで、それ自体に対して感想を述べることはなかった。そういえば、その人にはピアスと腕時計をもらったことがあったのだった。ピアス穴のあいていないわたしは、文字盤がピンクのその腕時計をとくに大切にしていて、いっときはお守りのように身につけていたはずだ。

 

その人と会った日、わたしは、自分で手に入れたイヤリングと細い指輪、そして、他の人にもらった、文字盤がゴールドの腕時計をつけていた。そう気がついたのは、会ってから5日が過ぎた、やたら春めいた日のことだった。

 

2018年2月

 

みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?

みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?

 

 読みかけだったのを読み終えた。料理人松國栄一さんの、仕事へのスタンスがおもしろいというか、自分もこういうふうになりうるなあという気がした。「今の仕事を、気持ちを折らずにつづけていかないと、僕は生きてられない。僕にとって生きるというのは、死なないようにすることです。そういう人が仕事をしてるということも、多々あると思うんですよ。(p.237)」

 

静かな雨

静かな雨

 

 再読。この装丁すごく好き……。これ買ったときに宮下奈都さんにサインをいただいたのだった。

 

赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア: 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本

赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア: 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本

 

 よい噂を聞いていたので読んだ。キャラクターを用いることで非常に理解しやすくなっていて、特に回復していくために踏むプロセスが細かく説明されているのがよかったと思う。支援者被支援者どちらが読んでもよいのではないか。そういえば、サバイバーについても述べられていたのが印象的だった。サバイバーであり支援者である人、結構多い気がしていて、自分も最近までそのルートを辿ろうとしていたので……。

 

たった、それだけ (双葉文庫)

たった、それだけ (双葉文庫)

 

 これも再読。宮下作品に描かれる感情の、なんというかこうこもった感じのリアリティはすごいよなあと思う。一筋縄ではすっきりさせてもらえないが、でも暗いわけでもない。

 

基礎講座 哲学 (ちくま学芸文庫)

基礎講座 哲学 (ちくま学芸文庫)

 

 だいぶ前に買って積んでたのをちょっとずつ読み始めた。哲学、間違いなく好きなんだけどきちんと履修してたのは倫理学だけで、ばらばらにしか学習していなかったので、流れを掴みたかった。今はまだ人類の始まりのところを読んでいて、すでによくわかんない。けど何回か読んだらわかるかな〜という気がする。

 

ハチクロ、初めて読んだのはいつだったかな……10年ぶりくらいに読んだら、主人公たちと年齢が近づいたのもあって共感の嵐だった。一方通行だらけの恋愛とかなんか……漫画で読むとこんな感じなんですね……。物語における救済、他者との関わりが主になっているものをよく見かけるのだけど、竹本くんの立ち直りはもちろんそういう部分もありつつ、しかし自分の足によるものだったのがかなりよかった。 

 

ひとり空間の都市論 (ちくま新書)

ひとり空間の都市論 (ちくま新書)

 

 読みたくて触るところまではいけた。

 

・2月は、1月に予定していた物事には結局参加できなかった。久しぶりに1週間ぐらいダウンするなど、なんとなくしんどい時間も多かった。これ多分仕事探さなきゃな〜といろいろしていたからだと思う、めちゃくちゃある選択肢から自分だけを基準に物事を絞っていくのが苦手。

・数年ぶりの友人と複数会ったり、気になっていたイベントに参加したりもした。soarの物語に関するイベントでは、改めて書くことの目的を問わなきゃならない場合について考えたりした(普段は書くこと自体が目的なのであまり考えてない)。Remeのメンタルヘルス×働き方のイベントでは、あ〜やっぱり自分の症状とかその他をもうちょっと人に伝えられるように言語化しないとね……と思った。自分でも取り扱いに困っている身体は、他人にとってはもっと取り扱いが難しいよな……。

・今月はほぼ一人暮らし状態だったのだが、やっぱあんまり向いてないなと心底思った。やるべきことが少ないのもあってどんどん生活リズムが崩れていってしまう。もうちょっと自分に気をつかえるようになるか、他人と住むかだな……、様々な分担ができるという点で他人と暮らすのは好ましいが、いつでも歌ったり人と話したりできるという点では1人サイコーと思った。

・いろいろ悩んだり1人で考えるとぐるぐるしてしまうこと、人に話させてもらいながら解消に向かえた月だった。自分は声に出しながら考えるのが、一番本心に気づきやすいっぽい。書いて出すのもやったけど、話すほうがより嘘をつかない、あるいは嘘をつく瞬間がわかってよい。

・3月はバイト先を決めたいな。バイト募集のツイートをしたら、ほぼお話ししたことない人を含む数人がリツイートやいいねをしてくれて、めちゃくちゃありがたかった。

三畳分の生活

 三畳プラスアルファで生活している。プラスアルファというのは、狭い意味では収納で、広い意味では銭湯とかカーシェアリング、レンタサイクルにスーパー、コンビニ、花屋、などを指す。


 寝られればいいから部屋は三畳もあれば十分で、だいたいのものは人と共有するから収納も余るくらいだ。車や自転車は出かける休日にあればいいし、小さい風呂に手足を縮めて入るぐらいなら数分で着く銭湯の大浴場に浸かりたい。掃除も大して必要ないし、どうしても大掃除?がしたくなったら家事サービスに頼めばいい(この狭さでも頼めるのかは、頼んだことがないから知らない)。料理は暇つぶしになるからたまにしていて、そのときのためにオーブン・レンジ・トースターを兼ねるやつがひとつ。キッチンスペースを借りるほどじゃないし。冷凍庫つき冷蔵庫は一番小さいサイズを買った。近くに24時間開いてるスーパーがあるから、ほんとは冷蔵庫もなくていいんだけど、作ったものの保存とか、調味料の保存とか。冷凍もほぼ同じ用途。髪をいじるのも狭い流しと姿見があれば問題ない。洗濯はコインランドリー。干すのは狭いけどベランダあるし、布団もなんとか。あ、トイレも共用。


 これよりでかい部屋に住んでる人って、いったい何を置くんだろうか。でかいテレビとかソファ?映画やドラマは配信サービス使って、でかい画面で見たかったらプロジェクター使えばいいしなあ。床に寝転がって見れば野外上映みたいな気分だし。あー、デスクとかワークチェアとかか。コワーキングスペース行けば解決。本は電子書籍で買うか、買って読んだらフリマアプリですぐ売っちゃう。あとは図書館。音楽はストリーミングサービスで聴けるし。


 他には……なんだろう?なんていうか、欲って環境にその規模を規定される気がする。三畳に住んでたら、三畳分の欲。それ以上あってもここには入らないし、全部をここにしまう必要もない。だから、風呂も洗濯も交通手段も外付けでいい。食料と花は保存しとくけど、食料は必要だからでしょ。花は、まあ、文化かな。香りと美しさはまだシェアしたり借りたりできないし、俺たちはバラも求めなきゃ。

2018年1月

月ごとにどんなことをしたのかなどを記録していきたいな〜と思ったので、とりあえず読んだ・読みかけた本をメモしておく。

 

目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)
 

 途中まで読んだ、世界の異なった見え方について興味がある。

 

ひとはなぜ服を着るのか (NHKライブラリー (96))

ひとはなぜ服を着るのか (NHKライブラリー (96))

 

 途中まで読んでなんかのりきれなかった、高野雀さんの漫画作品とかと合わせて読んで、いろいろ考えたかったけどうまく火をつけられなかった。

 

私たちの星で
 
 イスラームの話を読みたくて読んだ。人がどのように信仰しているかというのは同じ宗教であっても千差万別であるから、もっと他の人の信仰についても読みたい。モスクが好き。
 
あたらしいひふ (FEEL COMICS swing)

あたらしいひふ (FEEL COMICS swing)

 

 服装と人 どういう心持ちで服を着るのか?誰のために着るのか?なんのために着るのか?服装に意味づけって必要か?意味が生まれてしまうのか?などを考えていた。服や化粧をすることで自分はどうなると考えるのか一旦まとめたい〜と思っているうちにどんどんコンプレックスが気にならなくなってきてしまっている。それが「普通」になって、意味がなくなってしまいそうなところ。

 

自傷・自殺する子どもたち (子どものこころの発達を知るシリーズ)

自傷・自殺する子どもたち (子どものこころの発達を知るシリーズ)

 

 ずっと読んでみたかったので図書館に入れてもらって読んだ。援助希求能力の話があった、援助希求、苦手な人には難しいよね……と思いながら読んだ。一旦刺激的な置換をして、補助的な置換をしつつのちに鎮静的な置換にしていく、というのはなるほどだった。

ちょっと違うけど、しゃべるのに詰まることがここ1年ほど増えたので、とりあえず思いついた近い気配のする単語をいくつか口に出してみたり、そのまましゃべる流れを止めないで「え〜〜〜っなんだっけ忘れちゃった、えーと」などと続けたり、左手の一部をとんとん、と叩いてみたりしている。とくにとんとんするのはかなり合図として有効になってきてる感じがする、そういうのがあるのかはしらないけど。こういう行動に置換することによって、思い出せないことへの嫌悪などが減った気がする。

 

オープンダイアローグとは何か

オープンダイアローグとは何か

 

 症状をよい方向に解釈する例(たとえば父への暴力を遅れてきた反抗期ととらえるなど)が挙げられていて、へえーそういうのってありなんだ!と思った。自分がこれからどのような治療をしていくかなど、目の前でいろんな人たちが相談して自分の合意もあって決定されていくのは安心感あると思う。

 

生きがいについて (神谷美恵子コレクション)

生きがいについて (神谷美恵子コレクション)

 

 読み始めたばかり、好きなツイッターの人がおすすめしていたので。文章がとにかくきれい、冒頭がとんでもなくいい。

みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?

みんな、どんなふうに働いて生きてゆくの?

 

べてるの家ソーシャルワーカー向谷地さんの章タイトルが「生きるエネルギーを仕事からもらわない」だったから読んだ。

 

緑の庭で寝ころんで

緑の庭で寝ころんで

 

 宮下奈都さんのエッセイ、以前買ったのもよかったので読んでる途中。

 

・もう長いこと、本を読もうと思って読んでいなくて、課題の必要に迫られて読むばっかりだったので、変えていきたいな〜もう課題がある生活も終わる(予定だ)し、と思って読んだ。本を読むと目が回るような感覚は少し落ち着いた。勢いよく読みすぎると相変わらず酔うけど……。卒論が終わって嬉しくてガツガツ読めるものをガツガツ読んだけど、もうちょっとじっくりゆっくり噛みしめるように読むやつをやりたい。

・卒業したらなにしようかな〜(どこでバイトしようかな〜)と思って、気になるサービスの人に話を聞かせてもらったりしている。すごいスキルがあるわけでもなく、フルタイムで働くぞ〜ってわけでもないので(少しずつ慣らしていきたい)、マッチング難しいなあと悩む。仕事を探そ〜ってなると一気に精神が追い詰まる感じがあるので、苦手要素がいっぱい詰まっているのだと思う。いい機会なので何がどう苦手なのか言えるようにしたい、おそらく多すぎる選択肢の中から選ぶこととそれが高頻度に必要になることだと思うのだけど。

・2月の上旬にある物事に誘っていただいたことについてどうするかめちゃくちゃ迷った。ほっとくと不安で身動きとれなくなってしまうので、現実的な策を考えて不安をつぶしたり、なくしきれない部分については失敗・迷惑をかけることになってもいいやと思ったりするのが大事っぽい。そう思うのがとにかく苦手。人に超相談しながら考えたんだけど、主治医の後押しもあってイエスかなと思ってる。ある意味ではここでどう感じるかが結構自分のこの先を左右すると思うので、楽しみかつだいぶビビっている。調子悪くなりませんように。それは無理かもしれないから、軽くすみますように。

『勝手にふるえてろ』を観た

 

映画『勝手にふるえてろ』を観た。原作未読です。ラブコメディということになっているけど、いやたしかに笑えるシーンは随所にあったけど、それ以上にちょっと自分にとっては切実な話すぎて、枠としては『ムーンライト』とかなり近いんじゃないか……。ヨシカに感情移入しすぎて、ヨシカが辛そうにしているところでめちゃくちゃ泣いてしまい、もう特に後半全然コメディじゃなかったです。

ラストのやりとりとかすごいすごくて、あんなに自分の思ってることをこう、真正面から、自分の部屋というすべてから自分を守ってくれうるフィールドに他人が入ることを許しつつ、いや許すっていうかあれは侵入だと思うんですけど、そして扉を開けてなんともプライベートなことを叫ばれ、本当に信じられないけどそれらを受け入れ、考えられないようなことをする。っていうかなんか〜もう1回見たい!!!!

ああやってきちんと他人に思ってることを言うのも大事だし、でも全部受け入れてくれというのは違う、このへんがわたしにはいまいちまだ理解できていないような気がするのだが(よく聞くけどどういう意味なのかがよくわからない、聞こえる=受け取ると受け入れるが違うということ?受け取った時点で自分の内部に入るので受け入れてしまう気がする)、他人に対して開けることはすごく大事だなと思って、気を抜くと閉じてしまうのでこう意識的に……二を待つことなく開けていきたい……と思った。

おそらくだけど、勝手にふるえてろの感想を書こうとするとどうしても自分が入り込まずにいられないと思うので、いろんな人の感想を読んだり聞いたりしたい映画だなと思った。逆にあの映画をなんとも思えない人もいるのではないだろうか……グザヴィエ・ドランの『たかが世界の終わり』を観たときにそういう感想をちらほら見かけたのだけど。

東京に「退屈」を教えられた女

 

東京。それはわたしに「退屈」を教えた場所だ。

 

ずっと伊豆で暮らしていて、口では不便だというものの、実際のところそれほどその実感はなかった。級友と出掛けたければ、車で15分の最寄駅まで親が送ってくれるし、顔も知らない友人たちとの交流に夢中だった頃には、インターネット回線とデスクトップパソコン、ペンタブさえあればそれでよかったのだ。

これといって東京に憧れる理由のないわたしが上京したのは、唯一進学を許された大学が、東京のはずれにあったからだ。

大学1年目は寮に入っていて、バイトも難しいような門限があった。外泊するなら届出が必要だった。2年目、一人暮らしをした。あるイベントをきっかけに、ウェブメディアの会社でインターンを始めた。公共交通機関を乗り継いで通勤した。帰りは先輩と一緒に電車に揺られる。みんなで飲む。なんでもない夜、一人で新宿ゴールデン街に向かう。落語を観る。映画を観る。Twitterで仲良くなった人と会う。何時でも外に出られる。すぐに好きな人たちに会える。

 そのとき、18歳までの生活の不便さを知った。あっちだと、わたしはどこにも行けない。選択肢だってほとんどない。欲するものも見つけられず、かなりの時間退屈していた。そして、それらに気づくことさえできなかったのだ。そうわかったとき、東京で生まれ育った人への羨望……嫉妬心と言うほうが正しいかもしれない、も、芽生えた。彼らはずっと前から、選べる。自分1人で、動ける。いろんな人が、まわりに、いる。

 
今はまた少し考えが変化している。東京にいてもなんでも選べるわけじゃないとわかってきたのだ。ここでは経済力がものを言う場面も多い。それに、わたしの身体はもしかすると東京に向いていないかもしれない、なんて思うこともある。

そういえばもう免許も取れるし、地元に帰っても動けないこともないのかもしれない。地元にもなにもないわけじゃない。っていうか、行こうと思えばどこにでも行ける。起点によってハードルの高さが変わるだけで。で、そのハードルは、多くが土地によるものだけど、すべてが土地によるというわけでもないのだ。

「東京」も「伊豆」も、あるけどない。個々の生活があるだけ。多分目を向けるべきなのは鍵括弧つきのそれらじゃなくて、自分がほんとのところ、どう感じているかなんだろう。

 

わたしは、まだ、東京にいたい。

 

 そんなことを「悪友 vol.3 東京」を楽しく読みながら思ったのでした!

aku-you.booth.pm


地方出身者で、かつこれからどうしようかなと考えている者としては、下手なUターン体験記よりもよっぽどリアリティのある「地方→東京→地方」の話が読めてすごくよかった。自分自身選択肢との付き合い方がまだうまく見つけられていないので、東京から離れることで強制的に母数を減らすとか、わりと理想だな……と思いました。まあわたしが今住んでるのも東京(仮)みたいな土地なんですけどね!ありがとうございました。

レジリエンスが低い人のレジリエンスの高め方 平野真理『レジリエンスは身につけられるか──個人差に応じた心のサポートのために』

 

 

卒論でレジリエンス(回復力などとよく訳される)に関連するテーマを選んだので、レジリエンスについても多少は勉強したつもりでいるのだけど、ずっと気になってたのは「レジリエンスを高めるぞ」というときにポジティブ思考や社交性がすごく必要なんじゃないかということだった。他人とのつながりを絶ってはいけないということ、理解はすごくできるが、多分レジリエンスの低い人はそれが難しいのではないか?ポジティブ思考なんてもってのほかなのではないか?という気持ちがあった。

そんな中でこの本を読んでみると、まずレジリエンス要因(レジリエンスを導く性質)を遺伝に関係する資質的なものと発達過程で身につける獲得的なものとに分け、その2つのもつ効果はどう違うのかなどについても述べつつ、資質的なレジリエンス要因を持たない人のサポートがどう行われるとよいかについて書いてあった。

すごーく雑なまとめ方をすると、資質的レジリエンス要因が少ない人は、あるリスクをガードしづらくて人生ハードモードっちゃハードモードなんだけど、特有の強さも持っているし、他者のサポートを得つつスキルを身につけることでやっていけるようにはなるよ、支える側の人は彼らに対してまず聴く、それから助言等に進むといいよ、という話だったと思う。

 

資質的要因は、楽観性*1、統御力*2、社交性*3、行動力*4から構成されていて、遺伝的な影響が強い。これらは「ストレスや傷つきをもたらす状況下で感情的に振り回されず、ポジティブに、そのストレスを打破するような新たな目標に気持ちを切り替え、周囲のサポートを得ながらそれを達成できる力と関係していると考えられる(p.72)」。あったらめちゃくちゃ有利じゃん。

一方、獲得的要因は、問題解決志向*5、自己理解*6、他者心理の理解*7から構成されていて、遺伝的影響が少ない。これらは「自分の気持ちや考えを把握することによって、ストレス状況をどう改善したいのかという意志を持ち、自分と他者の双方の心理への理解を深めながら、その理解を解決につなげ、立ち直っていく力と関係していると考えられる(p.72)」。うわーこれも必要そう。

 

で、このように身につけにくいもの4つと身につけやすいもの3つがわかったわけだけど、じゃあこの2種類のレジリエンス要因は機能が一緒なのか?後者を身につけるだけで十分なのか?というのが疑問になる。

ここで、「心理的な敏感さ」をリスクとして考える。獲得的要因はリスクがあっても身につけやすい。だけど、これによって心理的敏感さを補えるというわけではないっぽく、心理的敏感さというリスクの防御推進には、資質的要因の影響が強いらしい。つまり、2種類のレジリエンス要因が導くレジリエンスは性質が違う。それはすなわち、なにかあったときに、そこから立ち直るあり方が違うということだ。

 

さらに具体的に、どういうふうにその立ち直り方は違うのか?と考えてみる。ここで行われた調査からは、傷つきへの対処法として、積極的コーピング(積極的に問題から離れる・積極的に問題に向き合う)と消極的コーピング(考えない・その場に留まる)が見出される。さらに、周囲のサポートとして、居てもらうサポート・聴いてもらうサポート・教えてもらうサポートの3つが見出される。

資質的要因得点の多い人は、積極的に問題に向き合う傾向があり、低い人はその場に留まる傾向が見られた。また、資質的要因得点が低いが獲得的要因得点が高い人は、教えてもらうサポートを得ながら積極的コーピングも行っていると考えられるが、資質的要因得点も獲得的要因得点も低い人は、聴いてもらうサポートを用いる傾向が見られた。以上のことから、資質的要因の少ない人は、まずは聴いてもらうサポートで消極的コーピングを支え、教えてもらうサポートを求めていけるように、問題に向き合う動機づけや援助要請能力を育むことが必要だと考えられる。

で、消極的コーピングって一見あんまりよろしくないもののように見えるのだが、調査結果からは、資質的要因の少ない人にとって、これはどうも適応的な方法なのではないかと考えられるっぽい。これらに見られるのは「逃げない我慢強さ」と「あきらめ」の力であり、これが不利に働いてしまうことももちろんあるのだが、言い換えれば「あるがままの受容」と「問題との折り合いをつけていく」という行動でもある。これらが大きなストレス状況を乗り越える底力的な役割を果たしているのかも、と平野氏は推測している。

 

このあと、個人差を踏まえた臨床心理学的介入の方向性についても述べられているんだけど、その方向性については5つの提言がなされている。

提言1:レジリエンス要因の中には、後天的に身につけにくいパーソナリティもあるという視点を持つ。同時に、レジリエンス要因を身につけられるかどうかには個人差があるという視点を持つ。

提言2:個人の生まれ持った資質に注目し、その資質を活かしたレジリエンスを引き出す。

提言3:資質的要因を多く持つ人には、様々な対処(コーピング)を用いて問題に向き合っていけるようにする。

提言4:資質的要因の少ない人には、多い人とは異なる立ち直り方があることを尊重する。

提言5:その上で資質的要因の少ない人には、「聴いてもらう」サポートを通して、本人が他の対処方法を「教えてもらう」サポートも選択していけるような可能性を提供する。( p.133-138)

 そして、具体的なサポートの流れとして、

ステップ1:個人の持つ資質的要因のアセスメント

ステップ2(資質的要因を多く持つ場合):「強み」を活かすサポートの提供

ステップ2(資質的要因が少ない場合):「聴いてもらう」サポートの提供

ステップ3(資質的要因が少ない場合):「教えてもらう」サポートの提供(p.140-144)

 という3ステップが挙げられている。このへんは心理職の人が実践することを前提として書かれているけれども、人から相談されたときとかに「なんでこの人はこうできないんだろう?」みたいに感じたときに役立つ気がする。

 

「資質的レジリエンス要因が少ない人は、あるリスクをガードしづらくて人生ハードモードっちゃハードモードなんだけど、特有の強さも持っているし、他者のサポートを得つつスキルを身につけることでやっていけるようにはなるよ、支える側の人は彼らに対してまず聴く、それから助言等に進むといいよ、という話」と冒頭でまとめてみたけど、どうでしたかね。資質的要因の少ない人が、多い人と同じようには完全にはなれない、しかし違ったやり方でレジリエンスを高められるよ、というのは、残念だけれども希望もある。あくまで資質「的」、であるところもポイント。遺伝的要素が高いからこのように名づけられているけど、後から獲得できないわけではない。

この本は各章非常に親切なまとめパートがあるので、まずそこを読んでから詳細を読む、というやり方でもよいと思う。気になった方はぜひ読んでみてほしいです。

しかし、スキルを身につけるのも人と一緒にやっていかなきゃ難しそうで、そこがちょっとつらい、とにかく人と関わりたくない人がレジリエンスを向上させるにはどうしたらいいんだろう、という疑問はまだ自分の中に残っている。そもそも人と関わらずにやっていこうというのが無理な話なのかもしれない。

*1:将来に対して不安を持たず、肯定的な期待を持って行動できる力

*2:もともと不安が少なく、ネガティブな感情や生理的な体調に振り回されずにコントロールできる力

*3:もともと見知らぬ他者に対する不安や恐怖が少なく、他者とのかかわりを好み、コミュニケーションをとれる力

*4:目標や意欲を、もともとの忍耐力によって努力して実行できる力

*5:状況を改善するために、問題を積極的に解決しようとする意志を持ち、解決方法を学ぼうとする力

*6:自分の考えや、自分自身について理解・把握し、自分の特性に合った目標設定や行動ができる力

*7:他者の心理を認知的に理解、もしくは受容する力